ふつうは日常生活の中で弁護士も警察にも関わることなどあまりないですよね。なので詐欺被害の相談先って案外わからなかったりします。それぞれの役割の違いなどもはっきりわからない人が多くて当然とも思います。
どこに相談するかは詐欺に遭った人がどうしたいのか、何を求めているかによっても違ってくると思いますが、まずはそれぞれの職業の役割を調べてみたいと思います。
弁護士の役割とは
よくテレビや映画で出てくる弁護士といえば、裁判で被告の弁護を行ったり、離婚の財産分与や親権に関する交渉や調停を行ったり、遺産相続の解決を行ったりというイメージではないでしょうか。
また個人対象だけでなく、会社の顧問弁護士などは契約書の整備やチェック、取引先とのトラブル解決、社内規定や労務管理の改善など、社内でおこる法律問題や不安などを回避・解決して守るということもしています。
ちなみに日本弁護士連合会のホームページにはその役割についてこのように記載されています。
弁護士の業務
日本弁護士協会
弁護士は、裁判、法律相談、交渉、契約書作成等の法律事務全般を行うことが可能とされています(弁護士法3 条)。
このような業務は、弁護士法72 条によって、原則として、弁護士以外の者が行ってはいけないことになっています。
弁護士の役割
弁護士は、法廷活動、紛争予防活動、人権擁護活動、立法や制度の運用改善に関与する活動、企業や地方公共団体などの組織内での活動など、社会生活のあらゆる分野で活動しています。弁護士は、社会で生活するみなさんの「事件」や「紛争」について、法律の専門家として適切な予防方法や対処方法、解決策をアドバイスする「社会生活上の医師」なのです。
日本弁護士協会
病気の予防が大事なのと同じように、社会生活での争いごとを未然に防ぐ活動は、弁護士の重要な役割の一つです。
具体的には次のような問題について、相談や交渉、裁判などを行っています。
- お金のトラブル
(債権回収、借金問題、債務整理 等) - 遺言、遺産相続
- 夫婦の問題
- 交通事故
- インターネット問題
(著作権侵害、誹謗中傷 等) - DV、ストーカー
- セクシャル・マイノリティ
- 生活保護
- 医療過誤
- 労働に関するトラブル
- 不動産の賃貸借トラブル
- 住宅や環境に関するトラブル
(欠陥住宅、近隣トラブル、公害 等) - 子供、障害者、外国人に関するトラブル
- 暴力団や不当要求などのトラブル
- 消費者トラブル
(TV通販やネットショッピングなど) - 裁判や法的トラブル
(訴状や裁判への出頭通知など) - 犯罪被害者支援
- 逮捕・起訴された対象者の弁護
等
上記の中で、詐欺に遭った場合に弁護士ができることは「債権回収」と「犯罪被害者支援」あたりになると思いますが、それぞれもう少しみていきましょう。
詐欺被害の相談で弁護士ができること
詐欺の場合、大きく分けて民事と刑事との2種類の対応があります。
民事の場合は被害者を救済することを目的として、被害者と加害者との当事者同士が直接争うのに対し、刑事では加害者に罰を与えることを目的として国(実際は検察官)と加害者とが争うことになります。
【民事】債権回収、損害賠償請求
民事は民法が適用されるケースで、被害額の返還請求や損害賠償の請求をすることができます。弁護士はそのために交渉や裁判などを行います。
具体的には、内容証明郵便の送付や訴訟(支払督促・少額訴訟・通常民事訴訟)などによって債権の回収を図ります。訴訟の種類については【完全マニュアル】連絡が取れない!返金してくれないときのお役立ち情報のページも参照してください。
【刑事】犯罪被害者支援
刑事では刑法が適用されるケースとなり、加害者を処罰することが目的のため被害額の請求はできません。
この場合、弁護士が詐欺被害者のためにできることには、「被害届」や「告訴状」を作成して警察へ同行するということがあります。
「被害届」は、弁護士に依頼せずとも被害者本人が警察へ行って出すことももちろん可能です。その場合は警察官が被害者の話を聞いて資料を作成していきます。ただし警察は被害届を受理した場合に捜査を行わなくてはならないため(義務ではない)、詐欺事件であれば詐欺罪成立のための要件を満たしていないと簡単に受理はしてくれません。詳しくは次項「警察の役割」にて記載します。
弁護士が被害届を作成し警察へ同行した場合であっても、受理してもらえないケースは実際に沢山あります。ただ法律の専門家である弁護士のサポートを得ることで、何らかプラスに働く可能性もあります。
「告訴状」も弁護士に依頼せず被害者が作成し提出することが可能ですが、やはり必ずしも受理されるとは限らないのです。告訴は警察が受理すると捜査義務が発生しますので、証拠不足や犯罪要件に一致しないなどのケースでは受理してくれないことがあるのです。そのため弁護士に作成代行を依頼するメリットは、受理される確率を大幅に高めることができるということです。
詐欺被害に遭った場合の告訴状の書き方はこちらを参考にしてみましょう。
👉刑事告訴・告発支援センター
また弁護士に刑事事件に関する依頼をした場合のメリットとしては、他にもこのようなメリットがあります。
- 捜査状況をわかりやすく教えてくれる
- 示談交渉をスムーズに進められる
- 裁判への付き添い
- 加害者と直接やりとりする必要がなく心理的負担が少ない
警察の役割とは
弁護士の役割についてある程度理解できたところで、警察の役割についても区別して学んでおきましょう。
警察の役割に関しては、次のような説明がありました。
警察の役割は、「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ犯罪の予防、捜査、交通の取締り、その他の公共の安全と秩序の維持に当たること」にあります。
香川県警察
詐欺の場合であれば、警察は加害者を処罰するために証拠収集などの捜査を行い、被疑者逮捕のため犯罪の詳細を明らかにします。
詐欺被害の相談で警察ができること
詐欺罪は、刑法で10年以下の懲役に処すると記載があり犯罪であることが明らかです。なので詐欺の加害者は処罰されるため警察が捜査を行う対象となりますので、被害報告または被害届を受理することになります。
(詐欺)第二百四十六条
e-GOV 刑法(明治四十年法律第四十五号)
1. 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
もしあなたや周りの人が詐欺被害に遭って、警察へ相談・被害届を出す場合は交番ではなく、犯罪発生地の管轄警察署へ行くことをお勧めします。
なぜなら詐欺事件の取り扱いは特殊で、専門的な知識を要するため交番で相談しても的確な対応が期待できない可能性が高いからです。詐欺被害は、警察署の中でも知能犯係という詐欺事件の他に選挙違反や汚職、商標法違反などを担当する部署で対応してくれます。
被害届の受理
実際に警察署へ被害の相談に行くと、担当刑事から被害状況について細かく聞かれることになります。
その場合にあると便利なのが、被害に遭ったことの経緯がまとめられた「時系列表」です。作成方法やサンプルは【完全マニュアル】弁護士や警察相談の際は「時系列表」が役に立つ!で記載しています。
ここで、詐欺被害について刑事による聞き取り行われた際に難しいのは、詐欺として被害届を受理するには満たさなければならない要件があることです。それについては次項で説明していきます。
詐欺罪の定義 – 4つの要件
その詐欺には定義があり、それが次の4つ要件を満たすことと、尚且つその4つの因果関係も必要となるのです。
- 金品などを奪う目的のため、巧みな言葉や演出で(被害者を)信頼させ【欺罔(ぎもう)】
- それによって(被害者は)結婚を決意できるほど嘘を信じて【錯誤】
- 詐欺師の誘導によって(被害者自身が騙されていることを知らずに)金品などを実際に引き渡してしまう【処分】
- その結果(被害者から)詐欺師の手元へ金品などが完全に移転される【財物の移転】
結婚詐欺も含め全ての詐欺罪は、この欺罔(ぎもう)、錯誤、処分、財物の移転の4つが詐欺罪の要件を満たさない限り、警察へ被害届を出しても受理してもらうことは難しいというのが現実です。
❶欺罔(ぎもう)
「欺罔」とは金品を騙し取るために嘘の情報を与えることを指します。
例えば息子を装ったオレオレ詐欺ならお金を出させるため息子を演じる行為のことになりますし、他にもお金を騙し取るため警察官や銀行員を装ったりするのも欺罔です。
ちなみに結婚詐欺の場合は、二人が結婚することを信じ込ませる行為がそれに当たります。
❷錯誤
詐欺師の欺罔行為によって、被害者がその嘘にだまされて信じ込んだ状態が「錯誤」です。
もしこの時点で被害者が詐欺師の嘘を見抜いている場合は詐欺未遂となり、詐欺罪は成立しません。
❸処分
「処分」行為は詐欺師の嘘の誘導によって、被害者自らが金品を渡すことを指します。
もし詐欺師が被害者の自宅などに行った際に、金品を勝手に持ち去った場合には詐欺罪ではなく窃盗罪に該当することになります。
❹財物の移転
「財物の移転」は、被害者の処分行為の結果、金品が完全に詐欺師の手に渡ることを指します。
❶〜❹の因果関係
詐欺罪が成立するためには、❶欺罔、❷錯誤、❸処分、❹財物の移転が因果関係によって全てつながることが必要になります。
例えば次のような場合には詐欺罪が成立しません。
- 加害者の欺罔行為はあったが、被害者が嘘に気が付き実際の被害はなかった
- 加害者の欺罔によって被害者は錯誤に陥ったが、実際に金品を渡すなどの被害がなかった
また下記のような場合は、加害者の「欺罔」が成立しにくく詐欺罪にはならないことが多いです。
- 被害者は実際に金品を渡してしまったが、加害者は「お金を借りるつもりだった」「借りて返すつもりだった」と主張している
つまり、もし加害者の欺罔行為によって被害者が錯誤に陥り、その結果金品を渡してしまった場合でも、欺罔の証拠がない場合は詐欺罪にはならない可能性が高いのです。
そのような場合には貸したお金の返金をしてもらうために、直接交渉ができないとしたら弁護士を通じて交渉または裁判を行うことになります。お金を渡した証拠がない場合でも、相手が「お金を借りるつもりだった」「借りて返すつもりだった」と主張しているのであれば、その文面や録音などを証拠にすることが可能になるでしょう。
まとめ
詐欺被害に遭った際、弁護士や警察がそれぞれどのような役割で動いてくれるかを理解しておくと、相談に行ったときに話がスムーズになると思います。
「加害者を処罰したいなら警察、返金させたいなら弁護士」です。
警察では、お金を返して欲しいことばかり訴えても「弁護士に相談してください」と言われてしまうだけなので、『こんなひどい詐欺師を許せない!罰を与えて欲しい!』ということを伝えるようにしましょう。