懲役3年の実刑判決となった当時39歳の無職男性。
人を信じられなくなったと語った被害に遭われた女性のことを思うと、決して許すことはできません。たとえ男が心から悔いて反省しても、やったことの事実と女性の心に残った傷を消すことはできないのです。
下記事件詳細は、朝日新聞記事からの引用です。
お見合いサイトで「医師資格をもつ元厚労省技官」と称する男と出会った女性は、結婚して幸せな家庭を築けると信じて、金を貸し続けた。気付けば総額5千万円超。だが、男は実は結婚離婚を繰り返し、ほかにも複数の女性から金をだまし取っていた結婚詐欺師だった――。
5月19日、名古屋地裁の903号法廷。住居不定、無職の被告の男(39)は眼鏡をかけ、上下黒色の服で判決に臨んだ。中肉中背の外見からは、女性に「モテる」ようには見えない。起訴状によると、被告は2015年5月~16年3月、「防衛省と機械を開発中で米軍に売却する渡航費が必要だ」などとうそをつき、交際女性から現金計約850万円をだまし取ったとされる。
検察側の冒頭陳述や取材から、事件をたどる。男と被害女性は07年5月ごろ、お見合いサイトで出会った。男は女性に対し、過去に医師免許を取得し「厚生労働省厚生医務技官」として働いたことがあるなどと、経歴や職業を詐称。交際を始めてからも「大学の医学部に進学することになった」などとうそを重ねた。
実際、男は実在する学会の会員で、周囲に「研究所所属の医師」と信じ込ませ、大学教授らと交際していた。女性からだまし取った金で大学教授らと飲食をともにし、一緒に撮った写真などを女性に見せて、信用させていた。女性の両親に会いに行ったこともあったという。
男と被害女性は07年5月ごろ、お見合いサイトで出会った。男は女性に対し、過去に医師免許を取得し「厚生労働省厚生医務技官」として働いたことがあるなどと、経歴や職業を詐称。交際を始めてからも「大学の医学部に進学することになった」などとうそを重ねた。
実際、男は実在する学会の会員で、周囲に「研究所所属の医師」と信じ込ませ、大学教授らと交際していた。女性からだまし取った金で大学教授らと飲食をともにし、一緒に撮った写真などを女性に見せて、信用させていた。女性の両親に会いに行ったこともあったという。
弁護側の被告人質問。
弁護人「最初に女性からお金を借りたのはいつ」
被告「はっきり覚えていない。お世話になっている方々と付き合うため。皆さん、社会的に成功している人ばかり。私みたいな人間が一緒にいるのは恥ずかしいと思うようになり、お金を借りるようになった」
弁護人「女性からお金を何回ぐらい借りた」
被告「覚えていない」
弁護人「金額は」
被告「5千万円ぐらいだと思う」
裁判官「いつぐらいから仕事をしていなかった」
被告「28歳ぐらい」
裁判官「ひと月にどれぐらい必要だったのか」
被告「学会がある時と、そうでない時と違いはあるが、大体20万~30万円あれば大丈夫」
裁判官が、ほかにも女性がいたかと尋ねると、被告は「4人ぐらいいた」と答えた。捜査関係者によると、ほかにも被害者が確認できたが、精神的負担などから捜査できなかったという。
弁護人「飲み食いは楽しかったか」
被告「この年になって、うそでも皆さんと仲良くさせて頂いて、『生きる価値を見つけたな』と思った」
弁護人「途中でやめようと思わなかったのか」
被告「何度も思った。周りの方がいつも誘ってくれて、甘えてしまった」
弁護人「他人のお金を交際費に使って、随分といい思いができた」
被告「正直、本当の実力じゃないので、心から楽しいと思ったことはない。自宅に帰って『何をやっているんだろう』という気持ちになった」
女性の陳述書面によると、男にだまし取られた5千万円超の金を工面するため、女性は生活を切り詰め、借金もした。事件発覚後、交際中に男が別の女性と結婚や離婚をしていたことを知り、「人を信じることができなくなっている」。30代のほとんどを男との交際に費やしたといい、「10年を返して下さい、と言いたい。子ども、家庭を持ちたいという夢を打ち砕かれた」と訴えた。
女性からだまし取った多額の金について、男は社会復帰後、月々4万円の被害弁償をしたいという意向を法廷で明らかにした。
検察官「完済までに何年かかる」
被告「60年」
検察官「月々6万円なら」
被告「30年」
検察官「月々4万円なら、完済する頃にはあなたは99歳。現実味がない。月々6万円は難しいという判断か」
被告「社会に出てこれぐらい稼ぐのは大変そう」
裁判官「女性に対するあなたの気持ちがいま一つ伝わってこない。3万、4万円を返せる当てはない」
被告「はい。どのように生活していくかは社会に出て、友人に」
裁判官「いつまで人に頼っているんだ、という話。女性はあなたと結婚できると思って関係を続けている、と重々分かっていたでしょう」
なぜ、男は大学教授らとの付き合いに固執したのか。
弁護人「女性に対しての思いは」
被告「取り返しのつかないことをやってしまった。小さい時から父に厳しく育てられた。父親のせっかんが原因。うそをついて世の中を渡っていかないといけないと考えるようになった。承認欲求。認めてもらいたかった」
弁護人「うそはまずいと思わなかったのか」
被告「認識はしていた。でも、正直に言い出せなかった。私が24歳の時に父親が自殺した。その後、親類から『父親が亡くなったのはお前のせいだ』と責められた」
弁護人「他人に被害を与えるうそはどうなのか」
被告「いけないとは思っていたが、自尊心を保つためにうそをついていた」
裁判官「彼ら(大学教授ら)には何てうそをついていたのか」
被告「もう自分では覚えていないぐらい様々なうそをついた。父親のことが背中についているような感じがして」
裁判官「世の中で生きている人は何かしらそういう困難を抱えている。あなただけじゃないと思う。結局、あなたの努力が足りないだけじゃないのか」
被告「その通りだと思う。他者に依存していた。他人に寄り添い、寄りかかってきた人生だった」
検察側は論告で、被告が女性から金を詐取するために大学教授らにも職業などを詐称したことなどから、「卑劣かつ巧妙な犯行」と指摘。「被告に自戒と猛省を促すため、徹底的な矯正教育を施す必要がある」と述べ、懲役3年6カ月を求刑した。
一方の弁護側は、背景には厳しい父親に対して被告が意見できなかった過去があった、と指摘。「現実逃避から自分を守るようになった。酌むべき事情がある」として、執行猶予付き判決を求めた。
名古屋地裁は5月19日、被告に懲役3年の実刑判決を言い渡した。
裁判官は、被告に信頼を寄せる女性の心情につけ込み、言葉巧みに支援を求めた「常習的で誠に狡猾(こうかつ)な犯行」として、「女性の気持ちを一顧だにしない、身勝手な動機には酌量の余地は全くない」と断罪した。
判決を言い渡した後、裁判官は被告を見つめて「女性に何ができるのか考えて、これを契機に今までのようなうそで固めるようなことは全部捨てて、本当の自分自身で勝負して下さい」と説諭した。
男は裁判官の言葉に「友人のご指導を受けて、まっとうな道を進んでいきたい」と誓った。被告は控訴せず、判決は確定した。
2017年7月20日 【朝日新聞】私の10年返して…5千万円結婚詐欺「60年かけ返す」