どうしてもやむを得ない事情があって、信頼している彼氏やパートナー、友人に「お金を貸した」「お金を預けた」「お金を渡した」というケースからトラブルへ発展してしまうケースがあります。
なぜなら例え貸した相手に返金の意思があっても、「お金を借りる」=「人にお金を借りなければならいほどお金に困っている」からです。
一時的に借りてすぐに解決するような事情であれば良いですが、長期的な事情だと根本的な解決がされない限り返金したくても返金できないという状況に陥ることがあるのです。
お金を貸した相手の経済状況は現在どうなのか、詐欺の可能性はないのか、といったところまで冷静に判断していくことも必要です。
後付けでも借用書(契約書)を作成しておく
お金の貸し借りをする場合は、本来身内や友人など近しい関係の個人間であっても「借用書」は作成すべきです。
「借用書」はお金を貸したことの証明になるだけでなく、税務署に貸したお金や返済されるお金が贈与だと判断されないためにも必要です。
借用書作成方法についてはこちらにも記載しています。
▶︎【完全マニュアル】騙されない!お金を貸す場合に最低限やっておくこととは?
とはいえ、お金を渡してしまった後に借用書を作成してもらうのは、貸す前に作成するよりも難易度は高くなります。
相手が借用書作成を拒む場合についても見ていきましょう。
賃借内容についてメールを送りログにする
金銭などを貸した相手が書面へのサインをしてくれない場合は、せめて貸した事実をメールで相手に送るなどして記録を残しておきましょう。それ自体が契約書になるわけではありませんが、後日トラブルや事件になった際に状況証拠として利用できます。
<メール例文>
XXX 様
こんにちは。
さて、○月○日にお貸しした○○○○○円の件なのですが、書面の契約書を残していなかったので念のため本メールで記録とさせてください。
もし返済予定の○○月に遅れる場合は、前もってご連絡をいただけますか?私の方でも調整が必要になるので予めわかると助かります。
(差出人名)
実際に七転び八起き猫も、まだ相手が詐欺師だと気付かぬうちに「先日預けた○○○○○円について」と記載したメールをたまたま送っていましたが、事件化されてから重要な状況証拠として警察へ提出しました。
刑事さん曰く、お金を渡したのと同時期に、メールなど送った時期が誤魔化せないようなツールでお金を渡したことを残しておくということが大事なのだそうです。
これまでの経緯を記録しておく
記憶が薄れる前にお金を貸すに至った背景や、どのようにお金を渡し、どのように連絡が取れない状況になったかについて、それぞれの日付を入れて時系列にまとめておいてください。
マッチングアプリで出会った人であれば、出会った時期なども含めて箇条書きで良いので記しておきましょう。詳細はこちらの記事も参考にしてみてください。
今後もし弁護士に相談する場合や、万が一刑事事件となった場合にも、その記録が間違いなく必要になります。時間が経ってしまうと記憶も曖昧になりますので、早い段階でできるだけ正確な情報をメモしておくことが大切です。
記録しておく内容は、「いつ誰が何をした」「いつ誰がなんと言った」という事実の他に、「その時にどう感じたか」など感情面も添えてくと見返した時に思い出しやすくなります。
またお金を渡したことを関連づけて証明できるような資料が残っていれば、捨てずに必ず保管しておきましょう。例えばLINEやメールのやりとりなども該当します。
実は口約束でも契約が有効!
借用書もメールで送ることもできない場合はどうしたらいいの?と思ってしまいますね。
でも大丈夫です。「いついつまでに返すから○○○○○円貸して」と頼まれて、既にお金を貸している場合は借用書がなくても口約束で契約が成立しています。
それは民法第587条により、お金や物の貸し借りに書面契約を必要としていないからです。
(消費貸借)
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。
民法 – e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
ただし口約束で契約が有効になるのは「すでにお金や物を貸している」場合であり、まだ貸していない段階では無効です。ただし貸した相手が否認した場合は、口約束だと返金してもらうことが難しくなってしまうかもしれません。
ここで1つ覚えておくべきことは、もしお金を貸す(借りる)前に金銭消費貸借契約など借用書を交わした場合は、お金や物を貸す前でも契約が成立してしまうということです。
例えお金を貸す場合でも、SNSやメールなども含めて相手から契約書などへの署名を求められる場合には、取り扱いに十分気をつける必要があるということです。
口約束でお金を貸している場合も返金の催促をしても返してもらえなければ、配達証明つきの内容証明郵便で督促するという流れになります。
返金されないときにすべきこととは?
返済の期日を過ぎても相手から何も連絡がない場合は、メールなどで催促する必要があります。
借金返済の催促手段としては軽いものから、「メール・手紙で催促」→「電話・訪問で催促」→「内容証明郵便の送付」または「弁護士(代理人)を通した交渉」→「少額訴訟・民事訴訟・支払督促」と進み、相手に財産があれば最終的に強制執行で財産差し押さえという流れになっていきます。
メールや手紙など文面で催促
返金催促の基本は、メールや電話などが一般的ですが、相手との関係性やいきなり初めから電話では催促しにくい場合もあるでしょう。
そのためまずはSNSやメール、手紙などの文面で催促を行ってみましょう。
<メール例文>
XXX 様
こんにちは。
○年○月○日にお貸しした○○○○○円の返済の件でご連絡しています。
当初のお約束で○○月末までにお返しいただけるということでしたが、その後ご連絡をいただけておらず返済もしていただけていないのですが、どのようになっていますでしょうか。
このような催促のメールをお送りするのはとても心苦しいのですが、私の方でも余裕があるわけではないので、いつ頃の返済が可能か具体的に教えていただければと思います。
XXX様にもご都合がおありなのだと思いますが、私の事情もお察しいただきご回答くださいますよう宜しくお願いいたします。
(差出人名)
電話や訪問をして催促
SNSやメール、手紙などの文面では返信がなかったり、相手の状況が伝わりにくいことがあります。そのため明確な回答が得られない場合は、電話や直接会って話をすることも1つの選択肢です。
ただしその際は、連絡・訪問の時間帯なども考慮し、過度な取り立てで迷惑行為にならないよう注意しましょう。
また本人同士の話し合いの場合は感情的にもなりやすく、状況は関係が悪化してしまう可能性もあります。もしそのような懸念がある場合には再度文面で催促を行い、反応が得られなければ内容証明の送付、または弁護士に相談することを検討しましょう。
内容証明郵便を送る
メールや電話などで何度か返済の催促をしても効果がない場合は、「内容証明郵便」を送りましょう。
内容証明郵便は郵便方式の1つで、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度です。
送った内容の控えが郵便局と差出人の手元とに残り、また送付された文書の内容や送付した日付などは郵便局によって証明されるので、後々損害賠償請求の場合にも証拠として利用することができるのです。
ただし内容証明郵便には法的効力はありませんので、強制執行などには利用できません。
内容証明の書き方・例文
内容証明には「日付」「相手の住所氏名」「自分の住所氏名」「表題」「通知内容」などを通常記載しますが、書き方や使用できる文字などに決まりがあります。
例えば縦書きの場合、書式は次のように設定する必要があります。
・1行20字以内、1枚26行以内
・1行13字以内、1枚40行以内
・1行26字以内、1枚20行以内
詳しくはこちらの日本郵便公式ページを参照してください。
▶︎内容証明 ご利用の条件等 [日本郵便株式会社]
個人間借金の返済のケースでの内容証明例文も紹介します。
なお、内容証明の送付方法についても原本の他に謄本2通、封筒、郵便料金、印鑑など用意して、集配郵便局に指定した郵便局へ持っていく必要があります。公式ページにて詳細を確認しましょう。
▶︎内容証明 利用方法 [日本郵便株式会社]
弁護士(代理人)を通した交渉・民事調停
相手との関係によっては、直接自分が交渉せずに弁護士に依頼して話し合いをしてもらう方法があります。内容証明も自分で作成〜送付をしなくても、弁護士に送付手続きをしてもらうことが可能です。
ただ弁護士費用として「着手金 10万~30万円」と「実費」、債券回収できた場合には「成功報酬 回収金額の10~20%(相場)」が発生してしまうので、貸与金額が小さい場合はあまり現実的ではありません。
無料の法律相談を受けたい|法テラス
国が設立した法的トラブル解決の総合案内所「法テラス」では、【収入基準】と【資産基準】を満たしている場合に無料相談を受けることができます。
弁護士会の法律相談センター
「どこに相談したら良いのかわからない」「誰かにこの悩みを相談したい」という場合、東京の弁護士会が共同運営する法律相談センターを利用できます。
少額訴訟・支払督促・民事訴訟
少額訴訟について
「少額訴訟」は60万円以下の金銭支払いを求める訴訟に利用することができ、1回の審理で即日判決を原則とする特別な訴訟手続きです。小さな費用で迅速に解決が求められる方法です。
少額訴訟を起こすことで和解に持ち込める可能性がある一方で、相手側が1日で審理を終える少額訴訟を拒否した場合には通常訴訟に移行する可能性もあります。その際は相手側が弁護士を立てた際には不利になるため、原告側も弁護士を立てる流れとなり結果的に費用がかかるというデメリットもあります。
東京簡易裁判所での少額訴訟の手続きに関してはこちらに記載されています。
▶︎少額訴訟 [東京簡易裁判所]
少額訴訟手続の特徴や流れについては最高裁判所のページが役立ちます。
▶︎少額訴訟 [最高裁判所]
なお訴訟の手続きには、証拠資料の提出が必要となります。
<証拠資料の例>
借用書などの各種契約書、請求書、見積書、注文書、領収書、帳簿等
また、メール文面のコピーや、電話の録音なども有効な可能性があるためできる限り多くの証拠を集めましょう。
支払督促について
「支払督促」は、債権者の申立てに基いて、裁判所書記官が債務者に金銭の支払等をするよう督促する制度のことです。
書類審査のみで迅速に債務名義の取得を可能にする手続きですが、相手側が異議申し立てをした場合には通常訴訟に移行することになります。
そのため債務者からの異議がないことを見込める場合においては強制執行の可能性があり、かなり効果的な手続きとなります。
東京簡易裁判所での支払督促の手続きに関してはこちらに記載されています。
▶︎支払督促 [東京簡易裁判所]
支払督促手続の特徴や流れについては最高裁判所のページが役立ちます。
▶︎支払督促 [最高裁判所]
また、支払督促について政府広報オンラインでも分かりやすく説明されています。
▶︎「お金を払ってもらえない」とお困りの方へ 簡易裁判所の「支払督促」手続をご存じですか?
民事訴訟について
「民事訴訟」は個人間の主に財産権などをめぐる紛争を、裁判官が当事者双方の言い分を聞いたり、証拠を調べたりした後に判決を出すことで解決を図る手続きのことです。
例えば債権回収や、不倫や交通事故などの慰謝料請求、建物明け渡し請求などが民事訴訟の対象です。
民事訴訟の特徴や流れについては裁判所のページを参照してください。
▶︎民事訴訟 [裁判所]
「少額訴訟」や「支払督促」の手続きを行った場合も、債務者の対応によっては民事訴訟へと移行します。
連絡が取れないときにすべきことは?
信頼しているからこそお金を貸したのに、連絡がつかなくなって返金がしてもらえなかったら本当に焦ると思います。
そのような時は連絡がつかない状況について、まずは冷静に整理する必要がありそうです。
現状を整理しよう
連絡が取れない状況は、大きく分けて次の3つのパターンがあると思います。
- 自宅や会社など連絡先は分かるが、連絡しても相手の反応がなく話ができない状況
- 連絡先は分からないが、家族や共通の知人の連絡先が分かる(間接的な連絡手段がある)
- 連絡先が分からない、共通の知人も勤め先も分からない(どこにいるか不明な状況)
また相手の事情として考えられるケースはこれらです。
この後にやるべきことは、何かしらの方法で相手に連絡を取るか、相手の状況を調べることです。
❶連絡しても話ができない状況
引っ越したり、入院していたり、連絡先が変わったりしたわけではなく、相手から返信がなくて話ができないパターンでは、どの連絡先を知っているのかによってもアプローチの仕方は異なると思います。
<本人の連絡先>
<会社の連絡先>
例えば連絡手段を次のように段階を追って、いくつか試してみると良いでしょう。
この際の注意点ですが、会社を訪問することだけは避けましょう。会社の連絡先しか分からない場合は、在籍確認を兼ねて電話やメールで連絡する程度にしておきましょう。
金銭貸与について話に出すことは逆に罪に訴えられることがあるので、決してしないようにしてください。
いくつか段階を追って連絡をしてみても、もし相手がそれを避けているようであれば、弁護士など代理人を通して連絡することを検討してみて良いかもしれません。
❷間接的に連絡ができる状況
本人の連絡先は分からない場合でも、相手の家族や共通の友人などを通じて連絡が取れるパターンがあると思います。
<間接的な連絡先の例>
ただし、相手の方から直接聞いた連絡先でない場合は、勝手に連絡してトラブルに発展しないよう注意が必要です。
上記の方法でも連絡が取れなかった場合も、次のステップとして弁護士などの代理人を通して連絡することを検討してみましょう。
❸全く連絡手段がない、どこにいるのか不明
引っ越しや連絡先が変わってしまったなどの理由で、連絡する手段が全くなく困っている場合のアプローチについてです。
このパターンはマッチングアプリなどで出会い、共通の知り合いがいない場合に陥りやすいケースだと思います。
また、相手が詐欺である可能性が高いケースとも言えます。
そのため貸した金額によっても判断が分かれると思いますが、探偵を使って素行調査をすることになります。ただし電話番号やメールアドレスなど手がかりが何もないケースでは、調査の時間と費用がかさむことも認識しておく必要があります。
相手が詐欺と断定(または仮定)した段階で債権者ができることについては、また別の特集でご紹介していきたいと思います。
警察は民事事件に介入しない
お金を貸した相手と連絡がつかない、どこにいるかも分からないからといって、警察に相談に行っても彼らは何もできません。
なぜなら警察の仕事は「借金の回収」ではなく、「刑事事件の解決」や「犯罪者の逮捕」だからです。
彼氏やパートナー、友達に貸したお金が返ってこないというのは「刑事事件」ではなく「民事事件」なのです。相手が詐欺で始めからお金を騙し取るつもりだったという場合は、警察が「詐欺事件(刑事事件)」として扱うことになります。
しかしながら詐欺罪成立するためには欺罔・錯誤・交付行為・財産移転の4つ要件を満たす必要があり、どれか1つでも揃わないと捜査対象にならないのです。
さらに4つの要件を満たしていても、明らかな証拠がなく事件化できない詐欺事件が非常に多いというのが現実です。
まとめ
今回は既にお金を貸してしまった後でも借用書は作成すべきだという話や、「貸したお金が返金してもらえない」「連絡が取れない」場合にできることを説明しました。
お金を貸したり渡したりした背景は、それぞれの関係や事情も異なるので全てに当てはまるというわけではありませんが、参考にしていただけたらと思います。
お金のトラブルは人間関係自体をも悪化させることがありますので、決して感情的にならずアプローチの仕方をよく考えて対処することが大事です。
七転び八起き猫